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たまにはこういうのも、と引っ張り出して再読。(とはいえ、最初に読んだのはたしか中学生くらいだけど)

とある寒村の湖のほとりに鐘があり、その鐘を規則的に撞きつづけている間は、湖に棲む龍は、一帯を洪水にしない、という約束の伝説がありました。今その鐘を撞いているのは、東京から来てここに居ついてしまった若者。その恋人がこの村随一の美女、百合。
今、この村は、ひどい旱魃にあえいでいて、水を得るには村の美女を犠牲にするしかない、と村人は思いつめている。

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湖の主は白雪という名の、それは美しい女で、実はかつてこの村の犠牲になり水に沈んだ過去がありました。恨みが固まって、もう人間じゃなくて龍かなにかのように、水を自在に操り、グロテスクな水棲生物を従えているのです(メインは鯉や鯰や蟹。やりとりは笑えるけれども、雰囲気がいかにもじめっとして、草むらから覗く目玉が見える気がする。この世界観はちょっときつい)。そうして、彼女は遠い山向こうに(やはり妖魔の)恋人がいて、会いたいのだけど鐘の誓いがあるから、村を水浸しにできずに動かないでいる。それももう限界、誓いも何も破る、と荒れ狂ったとき、聞こえてくる、美しい百合が恋人の帰りを待つ歌。白雪は、かれらを死なせるのはしのびないと優しいところを見せる。
一方、村人は、その鐘を全く軽視しているので、百合をいよいよ犠牲にしようとすると、恋人がこれを妨害し、敢えて鐘の撞木をはずしてしまう。

村人が、いきなり百合の家に踏み入って、村のために犠牲になるのは当たり前だ、恋人はよそものだからとっとと出て行け、言うことを聞かないなら畳んでしまえ、と迫るところが不気味でした。小学教師というのが口調が「急ぐです」「然りです」と、ちょっとたどたどしく、もし平穏なこの村ですれ違い的に話したりしたら、素朴でいい人と思ったかもしれない。ところが、この口調のまま、率先して踏みこむ一味に加わって、教師のくせに迷信を優先して、いやがる百合を裸にして牛の背中に縛り付けようとするのです。素朴、たどたどしい、それがかえって、この場面では一層暴力的で気持ちが悪い。(作者の実体験かなにか、こめてあるんでしょうかねえ?)

最後の洪水のシーンはなかなか凄いです。文章は短めだし、あっさりと全滅を示唆するだけなんだけど、恋人2人は乱闘の中で自殺。村人は大波に呑まれて、白雪の眷属に殺されている。そうしておいて、「嬉しいねえ、姥」と言う白雪の、なんとも冷酷な優雅さ。

この本に「海神別荘」「天守物語」もありますが、引き続き水っぽく、あまり続けて読みたくないので、また今度と思います。

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