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イプセンの戯曲は大体どれも好みなのですが、岩波文庫は時々平気で品切れするので、見つけたら買う、という細々とした手にいれかたになってます。
今回は『野鴨』
ある豪商の家のパーティから話が始まります。息子はこの父と仲たがいして、山の工場からなかなか降りてこなかった、それが帰ってきたところで、親友を招待したのですが。

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親友は父親が没落して勉学を諦め、写真師になっています。豪商のメイドだった女性と結婚して、一人娘は14歳。没落した父は豪商の家でちっぽけな仕事をもらって小遣い稼ぎ。写真の仕事は一日に数えるほどしかない。
それでも、一家は平穏な生活を送っている。そこへ、豪商の息子が仕入れたばかりの「真実」を突きつけにくるのです。
欺瞞の上に築かれたささやかな幸福が、どうしても偽に見えて彼には許せなかった? けれども、そんなの他人が口をだすことないでしょう。娘の出生が疑わしいとか、父の小遣いが結構な額な理由は、とか、疑わしい小さな汚点があるというならば、本人が気にして、自力で突き止めるべきです。
そう思いながら読んでいたけど、この親友同士は家族よりも絆が強いみたい。学友同士でもあったからなのか、思考も似ているんですね。『幽霊』ほどじゃないけど、今回も病気の発症するタイミングが絶妙でした。娘が失明する運命だというのを、写真師は嘆きながらもいたわってきたのですが、「真実」が親友によって語られたばかりのその戸口に、豪商が引退して再婚すると知らせが来る。引退する理由は、彼の眼が見えなくなるから。これが駄目押しになって、写真師は家族を排斥しようとする。

「真実」の中身も知らないまま、突然に父に見捨てられたと感じた娘は、自らが一番大事にしている、納屋の野鴨を銃で撃ちにいきます。そして銃声に驚いて両親がかけつけてみると、そこで即死しているのは娘なのでした。
イプセンの好きなところは、こういう場面で、例えば、最愛の娘の死が少しも感傷的にならないところです。なるほど写真師夫婦はひどく悲しみはする、けれども、破壊に向かっていたこの一家は、ラストシーンで何かを突き抜けており、読んでいる方はスッキリした気分になるのです。








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